現在、少子高齢化による後継者不足、人手不足の観点から事業承継やM&Aを検討する方が増えています。
後継者不足の問題は、日本経済にも大きな影響を与えかねないため、事業承継・M&A補助金による支援を行うなど国全体として問題解決に向けた取り組みが行われています。
日本政策金融公庫でも、事業承継やM&Aのニーズの高まりを受けて積極的な融資を行なっています。
そこで、今回は、日本政策金融公庫の事業承継・M&A融資制度を紹介すると共に、日本政策金融公庫以外の融資制度、事業承継・M&A融資を通すためのポイントについて分かりやすく解説します。
日本政策金融公庫の事業承継・M&A融資制度
事業承継問題は、日本経済において大きな課題の1つであり、国全体として問題解決に向けた取り組みが行われています。
では、日本政策金融公庫では、事業承継・M&A融資制度としてどのようなものがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
事業承継・集約・活性化支援資金
日本政策金融公庫では、国民生活事業、中小企業事業の両方で、事業承継・M&A向けの融資制度として「事業承継・集約・活性化資金」が利用できます。
国民生活事業、中小企業事業の「事業承継・集約・活性化支援資金」の詳しい内容について解説します。
国民生活事業
国民生活事業における「事業承継・集約・活性化支援資金」の概要は以下のとおりです。
| 利用対象者 | 中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者含む)と共に事業承継計画を策定している方安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方および当該事業者から事業を承継・集約される方中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)第12条第1項第1号の規定に基づき認定を受けた中小企業者(同項第1号イに該当する方に限る)の代表者、同法第12条第1項第2号の規定に基づき認定を受けた個人である中小企業者または同法第12条第1項第3号の規定に基づき認定を受けた事業を営んでいない個人の方事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に取引金融機関からの資金調達が困難になっている方であって、公庫が融資に際して経営者個人保証を免除する方事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業(経営多角化、事業転換、新市場進出)を図る方、新たな取組みを図る方、もしくはPMIの取組みを図る方 | |
|---|---|---|
| 資金使途 | 「利用対象者」の1に該当する方が、事業承継計画を実施するために必要な設備資金および運転資金「利用対象者」の2に該当する方が、事業承継・集約を行うために必要な設備資金および運転資金(当該事業を承継・集約される方が必要な設備資金および運転資金を含む)、ならびに事業の承継・集約を契機として必要となる設備資金および運転資金「利用対象者」の3に該当する方が、事業承継を行うために必要な設備資金および運転資金であって、経営承継円滑化法施行規則第15条第1項および第2項に規定されている資金「利用対象者」の4に該当する方が、取引金融機関との取引状況の変化に伴い必要な運転資金「利用対象者」の5に該当する方が、事業承継・集約を契機に、新たに第二創業、新たな取組みまたはPMIの取組みを図るうえで必要な設備資金および運転資金 | |
| 融資限度額 | 別枠7,200万円(うち運転資金4,800万円) | |
| ご返済期間 | 設備資金 | 20年以内(うち据置期間5年以内) |
| 運転資金 | 10年以内(うち据置期間5年以内) | |
| 金利 | 基準利率 ※各要件に該当する場合は特別利率が適用 | |
| 担保・保証人 | 顧客希望確認のうえ相談 | |
| 併用できる特例制度 | 経営者保証免除特例制度創業支援貸付利率特例制度設備資金貸付利率特例制度(東日本版)賃上げ貸付利率特例制度 | |
国民生活事業では、事業承継やM&Aに取り組む事業者向けに、通常の融資枠とは別枠で7,200万円(運転資金は4,800万円)までの融資を行なっています。
返済期間も設備資金は20年(据置5年以内)、運転資金は10年(据置5年以内)としており、状況に応じて柔軟な借入期間を選択可能です。
また、経営者保証を不要とする「経営者保証免除特例制度」や自社従業員の賃上げに取り組む事業者向けに「賃上げ貸付利率特例制度」などの優遇制度も利用可能です。
事業承継において経営者保証がネックとなるケースも多く、経営者保証免除の特例制度が利用できる点は、大きなメリットといえるでしょう。
なお、金利に関しては、2025年12月に日銀による政策金利の引き上げが決定しており、今後金利の上昇が見込まれています。借入時期によって金利が上がる可能性が高いため、注意しておきましょう。
中小企業事業
中小企業事業における「事業承継・集約・活性化支援資金」の概要は以下のとおりです。
| 利用対象者 | 中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者を含む。)と共に事業承継計画を策定している方安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方および事業を承継・集約される方事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業(経営多角化、事業転換、新市場進出)を図る方(取組後、おおむね5年以内の方を含む。)、新たな取組を図る方(取組後、おおむね5年以内の方を含む。)又はPMIの取組を図る方中小企業経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者または認定を受けた事業を営んでいない個人事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に取引金融機関からの資金調達が困難となっている方であって、公庫が貸付けに際して経営者個人保証を免除する方 | |
|---|---|---|
| 資金使途 | 「利用対象者」の1に該当する方が、事業承継計画を実施するために必要な設備資金および長期運転資金「利用対象者」の2に該当する方が、事業承継を行うために必要な設備資金および長期運転資金(当該事業を承継・集約される方が必要な設備資金および長期運転資金ならびに事業を承継・集約される方に対する転貸資金を含む。)「利用対象者」の3に該当する方が、第二創業(経営多角化、事業転換、新市場進出)、新たな取組又はPMIの取組を図るために必要な設備資金および長期運転資金「利用対象者」の4に該当する方が、事業承継を行うために必要な設備資金および長期運転資金であって、中小企業経営承継円滑化法施行規則に定める資金「利用対象者」の5に該当する方が、金融機関との取引状況の変化に伴い必要な長期運転資金 | |
| 融資限度額 | 直接貸付14億4,000万円 | |
| ご返済期間 | 設備資金 | 20年以内(うち据置期間5年以内) |
| 運転資金 | 10年以内(うち据置期間5年以内) | |
| 金利 | 上限2.5%各要件に該当する場合は8億円までは特別利率が適用8億円超の場合は、基準利率が適用 | |
| 担保・保証人 | 顧客希望確認のうえ相談一定の要件に該当する場合は、経営責任者の個人保証が必要 | |
中小企業事業では、地域経済活動の維持・発展のため、事業譲渡、株式譲渡、合併などによる事業承継・集約支援として、最大14億4,000万円の借入が可能です。
返済期間は、国民生活事業と同様に、設備資金20年(据置5年以内)、運転資金10年以内(据置5年以内)となっています。
金利に関しては、借入期間や該当要件の内容によって異なるものの、最大2.5%となっており、低利での借入が可能です。
金利面は、政策金利の引き上げによって金利が上昇する可能性が考えられます。
なお、経営者保証ガイドラインにより、一定の要件に該当する場合には経営責任者の個人保証が必要となります。詳しくは日本政策金融公庫各支店の中小企業事業窓口へ問い合わせると良いでしょう。
日本政策金融公庫は第三者承継のマッチングも実施

日本政策金融公庫では、後継者不在に悩む事業者や、事業を譲り受けたい事業者向けに、事業承継マッチング支援を行なっています。
事業を廃業する場合、さまざまな問題が考えられます。
例えば、事業で使用していた設備や在庫の処分、店舗の撤退費用などに多額の資金が必要になるケースも多いでしょう。また、廃業することで従業員が職を失ってしまうケースや顧客や取引先に影響を与えるケースも考えられます。
日本の企業全体のうち、99.7%が中小企業であり、中小規模事業者の減少は、日本経済へ大きな影響を与えかねません。また、創業や新分野への進出を考える事業者にとって、長年の経験や技術・ノウハウ、人脈などは目に見えない大きな資産です。
こうした資産を次の世代につなげていくうえで、事業承継は重要な意味を持っているといえるでしょう。
日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援は、第三者への承継に向けた支援を無料で利用可能です。
事業を譲りたい人も譲り受けたい人のどちらにもメリットがあるため、事業承継・M&Aを検討する際には利用を検討してみると良いでしょう。
日本政策金融公庫以外の融資制度
事業承継・M&Aに関して、日本政策金融公庫以外にはどのような融資制度があるのでしょうか。
ここでは、日本政策金融公庫以外の融資制度についてご紹介しますので、それぞれ見ていきましょう。
民間金融機関(地方銀行・信用金庫)
事業承継・M&Aに関連した融資は地方銀行や信用金庫でも積極的に行われています。
地方では少子高齢化などによる後継者問題が年々深刻化しており、地域経済の衰退が危惧されています。地方経済の衰退は、地方金融機関において死活問題といえるでしょう。
こうした点から、日本政策金融公庫との連携、信用保証協会保証を活用した支援のほか、事業承継やM&Aに関連した独自商品を提供するケースも増えています。
例えば、沖縄銀行では、株式取得や事業用資産購入、相続税・贈与税の納税資金として利用できる商品として「事業承継・M&Aローン(愛称:Bridge)」が利用可能です。
民間金融機関も事業承継やM&Aに注力しているケースも多く、柔軟に対応するケースが増えているので、まずはメインバンクに相談してみると良いでしょう。
信用保証協会付き融資
日本政策金融公庫以外の事業承継・M&Aの融資制度として、信用保証協会付き融資を利用するケースもあげられます。
信用保証協会では、事業承継計画に基づいて運転資金や設備資金を支援する「事業承継サポート保証」、事業承継時の「経営者保証」問題を解決する「事業承継特別保証」などの融資制度が利用可能です。
また、事業承継・引継ぎ支援センターなどの専門家と連携することで、信用保証料率の割引などの優遇制度が適用となるケースもあります。
ただし、信用保証協会の融資制度は、各都道府県に設置されている信用保証協会ごとに保証制度の内容や名称などの詳細が異なります。詳しくは管轄の信用保証協会に問い合わせると良いでしょう。
事業承継・M&A補助金
日本政策金融公庫以外にも、事業承継・M&A補助金を受ける方法もあげられます。
事業承継・M&A補助金は、事業承継やM&Aの際に必要な設備投資、事業承継や事業再編・事業統合に伴う経費の一部を補助し、日本経済の活性化を目的とした制度です。
事業承継促進枠では、補助対象経費の3分の2(中小企業基本法上の小規模事業者に概要する場合)または2分の1以内が補助され、補助上限額も800万または1,000万円以内となっています。
なお、補助金を受けるには、申請を行い、採択されなくてはなりません。
認定経営革新等支援機関からの確認書の発行を受け、事業承継計画書などの申請書類作成が必要になります。したがって、各種補助金等のサポートを行う専門家に相談してみましょう。
事業承継・M&A融資を通すためのポイント
日本政策金融公庫だけでなく、民間金融機関や信用保証協会付き融資、事業承継・M&A補助金など、国全体として事業承継やM&Aに向けた積極的な取り組みが行われています。
では、実際に事業承継やM&A融資を通すには、どういった点を押さえておくと良いのでしょうか。
ここからは、事業承継・M&A融資を通すためのポイントについて解説しますので、それぞれ見ていきましょう。
自己資金の割合を増やす
自己資金の割合を増やしておくことは、事業承継・M&A融資を通すうえで有効です。
M&Aにおける自己資金の目安として、総投資額の2割から3割が一般的とされています。
例えば、総投資額が1,000万円であれば、300万円程度の自己資金を準備しておくと、金融機関からの印象も良く、審査にも通る可能性が高いでしょう。
自己資金が多ければ、その分借入の返済負担が減るため、金融機関の融資審査にも有利に働きます。また、自己資金が多いと、事業承継やM&Aを行う事業者の熱意や覚悟の証明として評価される可能性が高いです。
とはいえ、自己資金の割合を増やしたからといって融資が通る訳ではありません。事業承継・M&Aによる事業収支の見通しを押さえたうえで検討するのが大切です。
事業承継計画書の精度を高める
事業承継計画書の制度を高めることも事業承継・M&A融資を通すために必要なポイントとなります。
事業承継は、5年から10年といった時間をかけて進めていくのが一般的です。
事業承継を進めていくには、後継者の育成、取引先や従業員への説明・引継ぎ、株式や資産の承継など、スケジュールを立てて取り組むことが求められます。
長い期間を要するからこそ、精度の高い事業承継計画書の作成が、金融機関融資を通すために重要なのです。
また、事業承継計画書を作成する際には、承継スケジュールと合わせ、業績の改善、組織の整備、財務内容改善などの取り組みを盛り込むのも大切です。
具体的な承継計画と経営課題の解決・改善につながる精度の高い事業承継計画書が策定できれば、金融機関からの信頼度も高まり、融資審査で有利に進む可能性が高くなるでしょう。
なお、事業承継計画を策定するには、専門的な知識が必要になるケースも多いです。必要に応じて専門家のサポートを検討すると良いでしょう。
買収後の事業計画と収益見込みを明確にする
買収後の事業計画と収益見込みを明確にすることも、事業承継やM&A融資を通すためには大切なポイントの1つです。
事業承継やM&Aに限らず、事業の将来性が見通せない限り、金融機関の融資審査を通過するのは難しいといえるでしょう。したがって、買収後の事業計画と収益見込みを明確にしておくことが重要になります。
例えば、買収企業の持つ経営資源が具体的にどのように活用できるのか、現在の自社の事業にどのような役立てられるかといった点を具体的に数値化するのが大切です。
買収後の事業計画と収益見込みの明確化は、金融機関融資を通すためだけでなく、買収後の事業運営においても役立ちます。自社の事業運営を円滑に進めるためにも具体的な事業計画を立てるようにしましょう。
専門家(税理士・行政書士など)に相談する
税理士や行政書士などの専門家に相談して進めるのも、事業承継・M&A融資を通すうえで重要なポイントになります。
事業承継やM&Aでは、税務面や法務面で専門的な知識が必要な場合が多いです。安易な考えで進めてしまい、後から多額の相続税や贈与税が課せられるといったケースも少なくありません。
融資審査において不安要素がある場合には、審査に影響が出る可能性も考えられます。こうした不安要素を排除しておくためにも、専門家に相談するのがおすすめです。
専門家への相談は、より客観的な視点からのアドバイスが得られる場合も多く、より精度の高い事業承継を進めることにつながります。
事業承継に伴うリスクを抑えつつ、承継企業が持続的に成長していくためにも、専門家に相談するようにしましょう。
