新たに事業を始める上で開業資金を集めるのは重要です。
日本政策金融公庫は、個人・法人問わず開業資金の融資元として人気があります。柔軟な審査や利用しやすい金利の低さが特徴です。
今回は、創業融資制度を探している方向けに日本政策金融公庫の新規開業資金融資について解説します。
創業融資制度を活用するなら新規開業資金融資
日本政策金融公庫の創業融資実績は年々増加傾向にあり、特に創業前融資は3年連続で増加しています。
開業時や起業時に活用できる日本政策金融公庫の制度として、以前は「新創業融資制度」「新規開業資金」の2種類が挙げられました。
しかし新創業融資制度は2024年3月をもって終了したため、現在は新規申し込みができません。
2024年現在は「新規開業資金」が、開業・起業時に利用する融資制度として人気を集めています。
新規開業資金は新たに事業を始める方および事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした制度です。特に、新たに事業を始める方・事業開始後税務申告を2期終えていない方は、通常よりも有利な条件で融資を受けられます。
- 無担保・無保証人で融資を受けられる
- 原則として、通常よりも利率が一律0.65%引下げとなる
- 返済期間として設定できる期間が長い
上記の有利な条件は、資金調達制度を拡充するために加えられた変更といえます。
新規開業資金融資制度の概要
対象者 | 新たに事業を始める方、事業開始後7年以内の方 |
---|---|
使用用途 | 新規開業・設備資金・運転資金 |
融資限度額 | 7200万円(うち運転資金4800万円) |
金利 | 約1.0%~3.0% |
担保・保証人 | なしも可 |
新規開業資金は開業資金や、開業後に必要となる設備資金や運転資金に利用できる融資制度です。事業内容を問わず幅広い方が利用できます。
新規開業資金は一定の要件を満たせばさらに低い利率での利用が可能です。低い利率が適用されるケースとして以下の例が挙げられます。
- 女性、35歳未満または55歳以上(女性、若者/シニア起業家支援関連)
- 廃業歴等があり創業に再チャレンジする(再挑戦支援関連)
- 中小会計を適用して創業する(中小企業経営力強化関連)
また前章の「創業融資制度を活用するなら新規開業資金融資」で紹介したように、創業期はより有利な条件で融資を受けられます。
前提として、「新創業融資制度」の廃止に伴い創業期の融資制度について様々な変更が行われました。創業融資ならではの特徴や直近で行われた変更点について解説します。
無担保・無保証人で利用できる
日本政策金融公庫の創業融資は、無担保・無保証人で利用できます。
新規開業資金は担保・保証人が必須ではなく、申込者の希望を聞きながら決定する仕組みです。担保の有無は、融資の可否や適用される利率を決める上での基準となり得ます。
一方で創業融資の場合は原則が無担保・無保証人です。担保や保証人を用意する必要はなく、担保等の有無が審査結果に影響を与えることもありません。
日本政策金融公庫以外の金融機関の融資は、担保や保証人が必須の場合がほとんどです。特に創業期の融資申し込みは条件が厳しいケースが多く、申し込むハードルが高いといえます。
日本政策金融公庫は新たに事業を始める人に優しい融資制度が多いといえるでしょう。
自己資金要件が撤廃された
新創業融資制度の廃止に伴う変更点の1つとして、自己資金要件が撤廃された点が挙げられます。
新創業融資制度を創業直後に利用するためには「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」の要件を満たす必要がありました。しかし前述のように新創業融資制度は廃止されています。
現在創業融資として人気のある新規開業資金には、自己資金要件がありません。以上から、創業融資の自己資金要件は撤廃されたといえます。
ただし、自己資金がなくても融資を受けやすくなったというわけではありません。自己資金要件はなくなったものの、融資審査に通過するためには一定の自己資金が必要です。
あくまで目安ですが、融資希望額の3割程度の自己資金があると安心といわれています。
融資上限額が増加!
日本政策金融公庫の新規開業資金の融資限度額は最大で7,200万円(うち運転資金は4,800万円)です。すでに終了した「新創業融資制度」の融資限度額は最大3,000万円でした。新規開業資金の融資限度額はかなり高めに設定されていることがわかります。
ただし、創業融資で1,000万円を超える資金調達を受けるケースはあまり多くないと考えられます。
根拠となるのは日本政策金融公庫総合研究所による「2023年度新規開業実態調査」です。同調査の中で、開業時の資金調達額が方法別に提示されています。金融機関等からの借入による調達額の平均は以下の通りです。
- 2023年:768万円
- 2022年:882万円
- 2021年:803万円
- 2020年:825万円
- 2019年:847万円
以上のように、実際の融資額は特別高くないといえるでしょう。とはいえ融資上限額の高さから、公庫が新規開業をする人に向けて手厚いサポートをしていく意向が伺えます。
返済期間と据え置き期間が延長
新規開業資金の返済期間と据置期間はそれぞれ以下の通りです。
資金使途 | 返済期間 | 据置期間 |
---|---|---|
設備資金 | 20年以内 | 5年以内 |
運転資金 | 10年以内 | 5年以内 |
以前は運転資金の返済期間は7年以内、据置期間として設定できるのは設備資金・運転資金いずれも2年以内でした。返済期間と据置期間が延長され長期返済ができるようになったため、事業や借入のしやすさが向上したといえるでしょう。
なお据置期間は元金返済が猶予され利息のみを支払う期間です。
創業直後は収入が安定しないため、毎月元金と利息の両方を支払うのが負担になりすぎる恐れがあります。返済負担を抑えて資金繰りを安定させるため、創業融資では据置期間を活用するケースが多くみられます。
新規開業資金に申し込む際に注意すべきこと
新規開業資金の融資は、事業開始前の事業者が申し込むため厳格な審査が行われます。
事前に、申し込む際の注意点について把握しておきましょう。
- 審査は創業計画書と事業計画書が重要
- 必要書類の用意が大変
それぞれ詳しく見ていきます。
審査は創業計画書と事業計画書が重要
創業期に新規開業資金を申し込む場合、審査では創業計画書と事業計画書が特に重視されます。
すでに決算期を迎えており事業実績がある場合、審査では直近の確定申告書や決算書、財務諸表等の書類を用います。
しかし創業期は実績を証明できる資料がありません。そのため代わりに創業計画書や事業計画書など、事業の計画や見通し等の情報をまとめた資料を使います。
創業計画書や事業計画書に記載する内容の例は以下の通りです。
- 申込者の経歴
- 創業予定の事業の内容
- 月の収支など事業の見通し
- 必要な資金および調達方法
- 他社からの借入状況
なお創業計画書・事業計画書に記載するだけでなく、面談時に口頭で説明する必要もあります。落ち着いた受け答えができるよう丁寧に作り込みをしましょう。
必要書類の用意が大変
新規開業資金の申し込みに必要な書類の用意に手間がかかる点にも注意が必要です。
新規開業資金の必要書類として以下の例が挙げられます。
- 運転免許証の両面、もしくはパスポートの顔写真および現住所の記載があるページ
- 創業計画書、事業計画書
- 法人の履歴事項全部証明書または登記簿謄本(法人の場合)
- 許認可証(許認可が必要な事業を営んでいる場合)
- 設備投資の見積書(設備投資を申し込む場合)
中でも特に大変なのが創業計画書および事業計画書です。他の必要書類は手続きをすれば入手できますが、創業計画書・事業計画書は自身で作成する必要があります。審査で特に重視される書類で丁寧な作り込みが必要なため、作成するのにどうしても時間がかかりやすいです。
書類の用意に時間がかかるほど申し込みのタイミングも遅くなるため注意しましょう。